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くだもの百科より


ポポー(ポポウ)

  これも私がはじめて世に出した果物の一つである。銀座のウィンドウに初売のときこれを陳列したら、ほとんどの人があけびと間違えた。それほどあけびによく似ている。口を開かないのがあけびと違う位のものだ。径五センチ、長さ十センチ位の丸くて長く濃い緑色、よく熟すと柔らかい手ざわりとなり紫色を帯びてくる。皮は薄く果肉は金色で美しい。香りは強烈で、人によってはおそれをなすほどだが、甘味の強いこととともに温帯果物中第一位を占める。ねっとりとして水分もあり熱帯 果物の王マンゴーを思わせる。
  なかなかの珍果だが、玉に傷なのは種子が多いことだ。枇杷もそうだがポポーの種子は、なお始末が悪い。一カ所にまとまっていないので、ご叮嚀にも行儀よく二列に並んで入っている。その一つがそら豆大で色は黒い。
  種子の周りをしゃぶるつもりなら、腹は立だない。この種子を蒔けばよく生える。現在日本に育っている木はあらかた実生のものである。
  戦時中、バナナ入荷中止の状態だったので代用品として大いに持てはやされ、各地に急に木が拡まった。産地といって定まった地方はまだない。庭木としてもよく或るから散在している。
  原産地。米国だが、日本に入ったのは、明治三十年代のはじめで、京都の郵便局へ米国から荷札のとれた小包が着いた。配達に困って中を見たら苗木だったので農事試験場へ届けてしまった。それが育ってよく実が成った。
  昭和七年に私が京都農事試験場を訪れたとき、吉村場長と相談して、その翌年からそっくり東京へ送って貰って銀座で売出した。

 珍果物として宣伝したのでよく売れたが、当時の量はたった一本の木だから知れたものだった。ところが苗屋さんの方が目をつけて、店で一個八十銭で小売りしたのに、種子一つの相場が二円ということになり、一個に七つも十もの種子を蔵しているから、果物が八十銭でその種子だけが二十円もするという奇怪なことになってしまった。
  私の店は果物屋だから、果物としての価値で売らなければならず、種子の価値二十円以上の物を、八十銭で売ること数年に及んだ。

  花がまた珍らしい。枝にくっついて咲き、開くと四センチ程となり、三辨の間にまた三辨、計六辨の花びらで、その色がきわめて暗く、黒茶褐色で濃い。およそ花は総じて明るく派手な色彩のものだが、ポポーの花はどんな虫を招くのか渋色すぎる。茶人お好みの黒百合の花も暗色だが、それにもましてわびている。雌芯が先きに熟し、その数もまばらだから、実のつく数も不揃いで、一つあり二つあり、たまには四つのもある。その付き方もあけびにそっくりである。